『私らしく暮らすための日本語ワークブック』の対象とは?

『生活者としての外国人向け 私らしく暮らすための日本語ワークブック』(アルク)は、主として、来日1年目で日本語能力が初級から初中級レベルの外国籍住民を対象としていますが、本書をテーマにしたセミナーが様々な場所で開催される中、次のようなご質問とご意見をいただいています。

①ひらがなが書けない学習者でも使用できますか
②日本語能力が中級以上であっても必要な内容だと思います

①②は、本書のみの課題ではなく、①は課題達成型と呼ばれる教室活動全般に向けられた問いかけ、②は地域日本語教育のカリキュラムに向けられた問いかけであるため、ここであらためて考えてみたいと思います。

まず①です。文型シラバスに基づいた教室活動では、ひらがな、カタカナが読めて書けるようになった後、各課で語彙が導入され、文型が簡単なものから複雑なものへ展開していきます。ただ課題達成型と呼ばれる教室活動は、その学習者が今、必要としていることができるようになる中で、語彙や文法を覚えるものです。それは、ひらがなとカタカナについても同様です。本書を例にすると、ひらがなが書けない外国籍住民のAさんが、第1課の「食べ物を買いに行く」で「りんご」と書きたいとします。すると、Aさんは「り」「ん」「ご」からひらがなを書き始めます。「あ」「い」「う」からではなく。Aさんに必要な語彙から、ひらがなを書けるようになるという考え方が、課題達成型の教室活動全般にあてはまります。

次に②です。日本語能力が高いということと地域社会になじみながら生活することが必ずしもイコールでつながらないことは、地域の日本語教育を考える上で大切な事実です。例えば、外国籍住民のBさんは日本語がとても上手です。そのBさんが日本語教室に参加する理由は、「コミュニティに入りたいから」です。Bさんはサッカーが好きで、サッカーが好きな人たちとつながり合いたいと思っていますが、まだその機会がないと言います。本書の「私らしく暮らす」とは、「日常生活で自分に合ったものを選びながら、日常生活の小さな希望をかなえ生活できる」という意味です。日本語能力が高くても、その人らしく暮らすことができていない外国籍住民がいます。本書がその課題解決の一助になりうること。ただ、この課題に取り組む教材がまだ不足していることも事実です。